昨今、様々な大企業で粉飾決算や改ざんなどの不祥事が明るみになっています。
情報が一瞬で広がる現代では、素晴らしい企業も一つの綻びで崩れ去ってしまいます。
どうして、この様な不祥事が起こってしまうのでしょうか。
それは、組織内で起こるモラルハザードと呼ばれる問題が原因です。
モラルハザードを解決するための糸口に必要な考え方としてエージェンシー理論というものがあります。
企業のモラルはどうすれば守られるのか、エージェンシー理論をベースに考えて見ましょう。
読みたいところだけ読むための目次
モラルハザードとは?
会社組織で考えてみましょう。
会社には以下の様な人間関係があります。
社員 ⇔ 管理職 ⇔ 社長 ⇔ 株主
この人間関係に於いて、常に「依頼する側」と「依頼を受けて行動する側」が存在します。
依頼する側を「プリンシパル」、依頼される側を「エージェント」と呼ぶため、エージェント理論という名前なわけです。
管理職 vs 社員
管理職は一般社員に一生懸命働いてもらいたいハズです。
しかしながら、部下である一般社員は手を抜いて楽することもあります。
管理職の方であればこんな経験は日常茶飯事?かもしれませんね。
社長 vs 管理職
社長は全力で売上を上げてもらいたいと考えます。
ほとんどの管理職はこれに反発することはないと思います。
しかしながら、例えば以下の様な状態であった場合
4月~3月で決算〆をしている会社にて、3月時点で今年の予算を達成していたらどうでしょうか。
3月にもっと売り上げを計上することもできますが・・・来年度である4月にとっておいた方が、来年度の自分の成績に弾みがつくと考える管理職もいるハズです。
売上高だけではなく、費用面でも在庫管理していない資材などで経費処理できるものは、3月に来年度分を買い込んでおいて、来年度の費用を小さくみせてしまうことを考える管理職もいるかもしれません。
こんなことは何の意味もなく、当然、社長も望んでいません。
株主 vs 社長
株主は社長(経営者)に頑張って株価を上げてもらいたいと思います。
しかし、社長は自分の任期中に失敗したくないとか逆に注目されたいなどの理由から
チャレンジをしなかったり、無理なM&Aをしようとしたりします。
どちらも会社の所有者である株主が望んでいないことです。
この様に、組織の人間関係ではどの階層でも「依頼する側」と「依頼されて行動する側」のニーズや考え方がマッチングしないことが多いです。
これがモラルハザードにつながります。
モラルハザードの原因は?
モラルハザードの原因は主に2つあります。
- 利害の不一致
- 情報の非対称性
利害の不一致とは、上記の組織内の人間関係で起こっている様に「依頼する側」と「依頼されて行動する側」の目標・目的が異なることです。
情報の非対称性とは、「依頼する側」が「依頼されて行動する側」の全ての行動を把握できないために起こることです。
モラルハザードがなぜ起こるのかを上記の様に説明するのがエージェンシー理論というわけです。
利害の不一致の解決策
利害の不一致の解決策はインセンティブを与えることです。
インセンティブとは目的を合わせる動機付けです。
つまり、依頼される側も自分が得をすることがあれば、依頼する側の目的達成に注力するはずだということです。
具体策としては以下の施策があります。
- 業績連動型評価
- ストックオプション
業績連動型評価は、その名の通り、業績が良ければ、昇給昇格に反映しますよという評価の仕組みです。
歩合制に近い分かりやすい評価です。
ストックオプションとは、一定の株価まで株価が上がった場合に、予め決めておいた安い株価で株を購入する権利が与えられる仕組みです。
当然、経営者は自分のために業績を向上させ、株価を上げようとしますね。
これは株主と目的が一致している状態です。
所有と経営が一致している状態というわけです。
情報の非対称性の解決策
情報の非対称性の解決策は依頼される側を監視する事です。
単純な解決策ですが、単純明快で、監視、見られていれば人は真面目に依頼通り動きます。
性善説を信じたいところですが、世の中そんなに甘くありません。
具体策としては以下の施策があります。
- 業務報告書の提出(日報、週報や月報など)
- トップダウンの目標管理(MBO)
- 大株主による指摘や提言
- 社外取締役の設置
部下と上司の関係では、月並みですが、細かく報告書の提出を求められれば、人はそれなりに働きます。
報告する内容がなかったり、薄かったりすれば必ず指摘されますからね。
これは社長と管理職で行われるMBO(Management by objective)の様な目標管理も同じです。
定期的な報告会があれば、それに向けて何もやらないわけにはいかないからです。
社長と株主で言えば、大株主が経営に意見するシーンなどは社長の個人的な目的への抑止力になります。
社外取締役の設置も外部の人間が冷静に意見できるという意味では同じ効果があります。
解決策自体も課題山積
- 業績連動型評価の課題
純間接人員は評価しにくい⇒平等性や透明感なくなる⇒モチベーション下がる
⇒インセンティブの意味がなくなる - ストックオプションの課題
経営者はとにかく株価を上げようとする⇒粉飾決算などの更に大きなモラルハザードを
起こす可能性が高まる - 社外取締役の設置
社外取締役を経営者が選ぶことが多い⇒お友達役員会となる⇒経営者に客観的な意見を
言えない社外取締役は何も意味がない
結局、モラルハザードは止められないのか?
業務報告やMBOなどで組織や社内のモラルハザードはある程度抑制できます。
しかしながら、社長と株主の話になると以前の記事で紹介した「所有と経営の分離」が問題になってきます。
やはり、所有と経営が一致している同族企業や大株主が経営する企業の方が理にかなっているということです。
↑の記事にもある様に日系企業でも同族企業で大きな成功を収めている企業があります。
サントリーやファーストリテーリング(ユニクロ)などがその代表です。
また、実はこれも以前の記事で「強い組織は一人一人がリーダーシップを取れる組織だ」と書きましたが、この様な組織では、そもそもメンバーのモチベーションが高く、お互いのビジョンを明確にしていますので、利害の不一致や情報の非対称性が生まれにくいわけです。
まとめ
なかなかまとめるのが難しいですが、モラルハザードを防ぐためには以下の事が重要になってくると言えます。
- 同族企業の様に「所有と経営の一致」の状態を目指すこと
- 従業員一人一人が高いモチベーションを持ちリーダーシップを執れる組織を作る事
所有と経営の部分は大きな力がないと動かせない部分ですので、先ずは強い組織作りを目指すことで自然とモラルが守られることにつなげて行きましょう。
《組織作りに関する記事》
↓宜しければシェアお願いします。